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短編小説2「ヒーリング」

あたしは、薄黄色を通してぼんやり景色を見ていた。

たぶん、ここはどこかの小屋の中。
でも、窓もあって、あたしはそれで、朝が来て、夜が来て、また朝が来て夜が来たことを知っている。

いつもは、外に出るとき、母さんと一緒に出る。

母さんは、あたしを「可愛い子」と呼ぶ。
あたしは、小さいから、一人で外へ出てはだめよ、と母さんは言っていた。

でもね。

こないだ見つけちゃったの。

母さんと同じ、薄紅色をした小さなお花。

一人で摘みに行って母さんをびっくりさせたかったの。

びっくりした後、きっと母さんはにっこりと笑って、あたしが大好きな声で
「母さんの可愛い子、ありがとう」
って言ってくれる。

あたしはそれを想像するだけで、ワクワクが止まらなくて、一人でお花を摘みに行ったの。

そしたら。

すごい速さで網が上から降りてきて、気づいたら、この薄黄色い景色の中。

ううん。ちがう。
最初はちゃんと景色は見ることができたの。

でも、朝と夜が来るたびに、景色が黄色くなってくる。

痛くもないし、苦しくもないし、お腹もすかない。

でも。

母さんに会えないのが辛い。

たまに、おひげのおじさんがのぞきに来るから、大きな声で「出して」「母さんのところに帰りたい」っていうんだけど、聞こえてるのか、よくわからないの。

寂しくて寂しくて、夜になると、一人で泣くんだけど、涙が頬っぺたに感じない。

今日もまた、夜が来た。また寂しい気持ちになるのかな。
そんなことを考えていると、グラリと大きく揺れて、頭をごちん、とぶつけた。

太くて大きな指があたしの背中をつまんで、持ち上げる。

ここで初めて、あたしはお水のようなものと一緒に瓶に入っていたことがわかった。

「よし。こんなもんだろ」

低い、おじいさんみたいな声がした。
怖くてゆっくり振り返ると、たまにのぞきに来る、髭のおじさんだった。

「古文書通り三日漬け込んだんだ。これでヒーリングの原液はできあがりさ。あとは、薄めて呪文工場に売りに行くだけ」

ヒーリング?
呪文工場?

母さんと一緒に居た洞穴では、聞いたことない言葉。

「お嬢ちゃん、お疲れさん。わりいな、魔法使いの魔力を使わなくてもヒーリングの呪文を作れる禁断の方法ってのを試させてもらったぜ。」

その時。

終わったのか。

と違う、おじさんの声。

おひげの形が少し違うおじさんが、大きなコップを両手に持って近づいてきた。

「終わったぜ。これでしばらく金には困らんだろ」
「実際のところ、呪文工場の魔法使いどもは、魔力を使って呪文を作るのに、毎日クタクタらしいからな」
「まぁ、クローンとか、でけぇ呪文を売りつけたほうが高く売れるんだろうけどさ。」
「いやー、ヒーリングだってかなりの注文が来るらしいぜ。上手くいきゃ、こんくらいはいくだろうよ」

一人のおじさんが、片手で指を三本立てる。

二人はそれを見て、大笑いする。

あたしだけ、よくわからない。

あたしをつまんでいたおじさんが、ふと視線をあたしに向ける。

「さて、こいつは用無しだ。一回ヒールの効果を出し切ったヒーラーなんぞ、二度と役に立たねぇからな」
「野良のヒーラーの幼生なんて、良く見つけたな」
「苦労したぜ。何日も粘って粘ってやっと、だからな。」
「戦場の悲惨さに耐えかねたヒーラーが、稀にキャンプを飛び出すってのは聞いていたが・・・」
「しかも、そいつがガキまで作ってるパターンなんて、そうそうないだろ?俺たちゃ、ついてるんだよ」

また二人は、大きな声で笑う。

「じゃ、あばよ、お嬢ちゃん」

窓を開けたおじさんは、あたしをぽい、と外へ放り出した。

「きゃ」

あたしは、思わず大きな声を出して、いつもみたいに羽を動かそうとしたけれど、羽が、動かない。
草原の上に、どしゃり、と落ちた。

「いててて・・・」

少し腕に擦り傷ができたけど、他は大丈夫みたい。
それより、早く母さんの所へ、帰りたい。

きっと母さん、待ってる。

もう一度羽を動かそうとしたけれど、動かない。

重くて。

羽が濡れて、重い。

日はすっかり暮れて、ホーホーという鳥の鳴き声が聞こえる。

どちらへ歩いたらいいかも分からない。
ますます泣きたい気持ちになったとき。

「可愛い子」

懐かしくて優しい声がした。

「母さん!!!」

薄紅色の母さんが駆け寄って、ぎゅっと抱きしめてくれた。

「良かった!!」

あたしは、もう何にも言えなくて、わんわん泣いた。

母さんは、あたしを抱きしめたまま、すぐにその場を離れ、いつもの洞窟へむかった。
そして、あたしの体を、麻の布で拭きながら

「一人ででかけてはいけないと、あれほど言ったでしょう」

と、普段は聞かないような怖い声で、そして今にも泣き出しそうな顔で、言った。

「ごめんね、ごめんね、母さん!」

あたしは、それしか言えなかった。

母さんはひとしきりふき終わってから、ゆっくりとした口調で言った。

「可愛い子、二度と離れてはだめよ。母さんが、ずっとずっと守ってあげるからね」

まるで、何かをこらえてるような声で。

「うん!」

あたしは、大きくうなずいた。

もう二度と、母さんみたいな、きれいな薄紅色のヒーラーになれないとは知らずに・・・

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